質問主意書08.10.30

質問主意書08.10.30

2008(H.20)年10月30日提出(質問第78号)

電磁波による健康影響等に関する質問主意書・答弁書の内容

 電気設備、電気通信設備、無線設備等から発射される電磁波による健康影響などについては、「電波防護指針」、「電波防護のための基準への適合確認の手引き」等として示されているが、多くの市民や市民団体から健康上の不安等の訴えがあり、その規制の強化等について検討を要するものと考える。

また、電気設備、電気通信設備、無線設備等の整備等に際して、地域住民から健康上の不安等の訴えにより、事業者との訴訟事案や整備等を断念する事例なども見られる。

このような状況を早急に回避することが必要であると考え、電磁波による健康影響等に関して次の項目について以下質問する。

●質問1

 文部科学省科学技術振興調整費が活用された研究である「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」(1999~2001年度)は、兜真徳国立環境研究所首席研究官(当時)らによって行われ、子供部屋の平均磁界レベルが0.4マイクロテスラ以上だと小児白血病の発症率が2.63倍に増加するという、他の疫学調査とほぼ同様の結果を示した(以下、当該研究報告を「兜報告」という)。その兜報告について、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会(以下、「部会」という)は、事後評価書を作成、公表した。

この兜報告等について、以下の点について明らかにされたい。

▼質問1-1

「科学技術振興調整費による研究評価は、2001~2005年度で計478件。オールC評価は、この(兜報告)一件だけだ」と新聞報道されたが、これは事実か。

また、その後現在に至るまで、オールC評価は存在するか。

△答弁:

平成13年度から平成17年度までに、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会(以下「研究評価部会」という。)において実施された、科学技術振興調整費による取組の中間評価又は事後評価の件数は、475件である。

これらの評価は、年度、取組の内容及び評価の時期によって、基本的に三段階又は四段階で実施されたものであるが、これらのうち、すべての評価項目で最低評価を受けたものは、平成14年度に実施された「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」(以下「本件研究」という。)の事後評価だけである。

また、その後、平成18年度及び平成19年度の評価は四段階で実施されたが、これらのうち、すべての評価項目で最低評価を受けたものはない。

▼質問1-2:

兜報告を評価した部会委員のうち電磁波及び疫学の研究者・専門家は、何人いたのか。また、その肩書き・氏名を明らかにされたい。

△答弁:

本件研究の事後評価の当時に研究評価部会に所属していた委員のうち、電磁波に関する専門家は北澤宏一科学技術振興事業団専務理事、疫学に関する専門家は田中平三独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長(肩書はいずれも当時)である。

▼質問1-3:

「告発・電磁波公害」(緑風出版、2007年)は、部会による兜報告の評価書作成の経緯について、その概略を以下の通り報告している。

(1) 2002年11月18日に行われた部会の健康・医療研究評価ワーキンググループによる兜氏のヒアリングにおいて、出席委員10名の内9名は、配布された資料を事前に読んでいなかった。

(2) 委員からは「なぜ小児ガンだけを調べるのか、携帯電話やパソコンの調査をしないのか」などの素人同然の質問が相次いだ。

(3) 委員ではない文部科学省の原徳寿がん研究調整官が発言し、兜氏と延々と議論を行った。この時に原調整官が追及し、委員からは指摘がなかった「セレクション(選択)バイアス」等について、評価書に盛り込まれた。

(4) 兜報告の担当評価委員でありながらヒアリングを欠席していた田中平三主査は「私はコメントしなかった」と言い、主査代理の委員も評価書作成に関わっていないと言った。

(5) 右記から考えれば、評価書は委員がまとめたのではなく、原調整官の意見をワーキンググループの意見として、文部科学省の事務局が勝手にまとめたことは確かだ。

以上、7億2,100万円もの国費を投じ、市民の健康にとって重要な研究にもかかわらず、(1)から(5)までの記述が事実であれば由々しき問題だが、それぞれの事実関係について示されたい。

△答弁:

平成14年11月18日に行われた、研究評価部会の下に設置された健康・医療研究評価ワーキンググループにおいて、委員から、電磁波と小児の健康との関係を研究するに当たっては様々な課題設定が考えられる中で、なぜ「小児がんだけに集約されてしまったのか」、また高圧送電線等から発生する電磁波だけではなく「今いっぱいパソコンもありますしそんな物に囲まれていますのでそちらの方からやっていただけたら、(中略)分かりやすかった」という発言があったことは事実である。また、疫学研究の評価に際して検討のポイントとなる「セレクションバイアス」について、事務局が発言をしたことも事実である。

しかし、本件研究の事後評価は、同ワーキンググループの席上のみならず、その後の評価書の作成過程において、「セレクションバイアス」の件も含めて、電磁波、疫学、公衆衛生学等の専門家を含む委員全員による専門的な検討を経て決定されたものである。

▼質問2:

 電磁波による健康上の不安等を持つ市民が、自己の費用負担により自宅周辺の送電線等の改善による磁場低減措置を求めたことに対して、電力会社により拒否されたという事例があるが、政府はその事実を把握しているか。

 また、世界保健機関電磁波プロジェクト環境保健基準モノグラフ第238巻では「健康と電力がもたらす社会経済的利益の両者は容易に両立しがたい点があるとするなら、被曝を低減するためにはごくわずかなコストで済む予防的措置を講じることが合理的であり、正当なことである。」、「電気・電力機器や装置から漏洩する超低周波電磁界を低減するために工学的な改善を施すことは、たとえば安全性の向上といったようなさらなる利益が得られるのなら、あるいは改善のためのコストがほとんどあるいはまったくかからないのなら、考慮されるべきである。」などと勧告されていることから、先述の市民の主張は正当なものであると考えるが、政府の見解を示されたい。

△答弁:

政府としては、御指摘の事例については承知していない。

また、超低周波電磁界の健康影響に関する世界保健機関(以下「WHO」という。)の正式見解を示した文書は、ファクトシートのナンバー322(以下「WHOファクトシート」という。)である。WHOファクトシートにおいては、超低周波磁界とがんとの因果関係があるといえるほどの証拠は見当たらないとの見解が示されており、また、WHOの専門家チームが作成した文書である環境保健基準のナンバー238において示されている、既存の電力設備に係る御指摘の見解は採用されていないものと承知している。

▼質問3:

経済産業省の「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」報告書には、「磁界低減技術とコスト評価」としてその技術が示されている。この中に「既に、170kV以上の超高圧送電線については、ほぼ全て(92%)について逆相化が適用されており、また、残り8%についても、山中等人が多く集まる場所にはないことから、当該技術適用の余地は極めて限定的である。」とある。この逆相化された送電線の導入年及び実施済みの国内送電線の箇所について、具体的に示されたい。

また、国内送電線について、1,000mGを超えている場所及び電場3kVを超えている場所を政府は把握しているか、把握している場合はその場所を示されたい。

△答弁:

御指摘の170キロボルト以上の超高圧送電線における逆相化の適用状況については、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループ(以下「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」という。)において、電気事業者の代表として参加している委員からその概況の報告を受けたが、逆相化の実施年次及び実施済みの箇所については、報告を受けていない。

また、お尋ねの国内送電線について「1,000mGを超えている場所」とは、磁界が100マイクロテスラを超えている場所のことを指すと考えられるが、これについては、電線ケーブルの地中からの立ち上がり部において、その表面が局所的に100マイクロテスラを超える場合があることは承知しているが、具体的な場所については承知していない。また、「電場3kVを超えている場所」とは、電界が3キロボルト毎メートルを超えている場所のことを指すと考えられるが、これについては、電気事業法(昭和39年法律第170号)に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令(平成九年通商産業省令第52号)第27条に基づき、原則として、地表上1メートルにおける電界の強さが3キロボルト毎メートル以下となるように超高圧送電線を施設すべきことを、事業用電気工作物を設置する者に義務付けているところである。

▼質問4:

経済産業省「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」報告書において、リスクコミュニケーションの必要性について提起され、「中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築」の必要性が示されている。現在その準備室が財団法人電気安全環境研究所に設置され、準備が進められていると聞くが、その準備に携わる構成団体及び者、目的、準備状況等について具体的に示されたい。

また、リスクコミュニケーションの増進を図るためには、その組織の中立性などが重要であると考えるが、準備室への市民やNGO等の関与の必要性について、政府の見解を示されたい。

△答弁:

電力設備電磁界対策ワーキンググループが平成20年6月30日に取りまとめた報告書において、御指摘の電磁界情報センターの設立に係る提言がなされたことを踏まえ、財団法人電気安全環境研究所において、学識経験者、消費者を代表する団体、マスコミ関係者、電気事業者等が参加して、同センターの中立性を確保するための組織及び運営体制の在り方について検討がなされ、平成20年11月4日、同センターの開設に至ったものと承知している。

経済産業省としても、同センターの中立性については重要であると認識しており、同センターの運営状況については、学識経験者、消費者を代表する団体、弁護士等から構成される、同センターから独立した組織によるチェックを通じてその中立性が確保されていくものと承知している。

●質問5:

日本テレビ系列のニュース番組「NNN今日の出来事」の「特集 電磁波に包まれた街」や、日本消費者連盟刊行の「恐るべき電磁波汚染」というビデオ、その他の報道によると、大阪府門真市の住民300名余からなる町内会の自治会長が調査した結果、「町内で過去13年間に死亡した人が160人、うち82人がガンで死んでいました。血液のガンといわれる白血病で死んだ人がそのうち高圧送電線群を中心に直径100メートルの範囲で13人、150メートルになると18人。ガンで入退院している患者が17人。死亡年齢は7歳から72歳で、夫婦ともに白血病で亡くなっている家族もありました。被害は15万4,000Vの高圧線と14年前に地下に埋められたケーブルの周囲に集中しています。」(「週刊金曜日」1997年3月21日号)といったことが判明している。本件について、以下の点について明らかにされたい。

▼質問5-1: 

本件について、政府は事実を確認しているか、示されたい。

△答弁:

政府としては、御指摘のような内容が報道されたことは承知しているが、報道内容の事実関係については確認していない。

▼質問5-2:

本件に係る実態把握・健康調査及び疫学調査等を行うべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

▼質問5-3:

本件以外の地域でも送電線近接地での居住等は多数見られる。政府は、全国の極低周波磁場の発射数値が高い地域の実態調査及び疫学調査、疾病の把握等を緊急にすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

△質問5-2・3の答弁:

WHOファクトシートにおいて、超低周波磁界とがんとの因果関係があるといえるほどの証拠は見当たらないとの見解が示されたことを受け、電力設備電磁界対策ワーキンググループが電力設備から発生する超低周波磁界とがんとの因果関係について検討した結果、その報告書において同様の見解が示された。これを踏まえ、政府としては、御指摘の地域を含めた各地域における実態把握等を行う必要性は低いと考えている。

▼質問5-4

本件も含め、わが国には送電線近接地での居住等は多数見られる。これは送電線下や近隣には居住制限等を課している欧米諸国と比較すると、予防措置等の不備だと考えるが、政府の見解を示されたい。

△答弁:

電力設備電磁界対策ワーキンググループの報告書においては、WHOファクトシートの見解に従い、高レベルの磁界への短期的な曝露によって生じる健康影響については、国際的な曝露ガイドラインの制限値を規制基準値として採り入れる等の諸規定の改正を行うべきであること、また低レベルの磁界による長期的な健康影響の可能性については、規制を導入する場合にはこの国際的な曝露ガイドラインの制限値を無視して、恣意的に曝露制限値の設定を行うことは認められないこと等が、それぞれ提言されている。経済産業省としては、これらの提言を踏まえて、電気工作物の保安及び公共の安全の確保の観点から、電力設備で発生する磁界への規制を検討しているところである。

▼質問6:

2005年度厚生労働科学研究「微量化学物質によるシックハウス症候群の病態解明、診断、治療対策に関する研究」において、北里研究所病院臨床環境医学センターを受診した7人の症例を報告した「電磁波過敏症が初発症状として考えられた七症例」、海外の研究をまとめた「電磁波と生体:文献的考察…最近の研究を中心として…」が掲載されている。この研究報告について政府の見解及び今後の対応を示されたい。

△答弁:

御指摘の「電磁波過敏症が初発症状として考えられた七症例」及び「電磁波と生体:文献的考察…最近の研究を中心として…」は、いわゆる電磁過敏症が疑われる症例を報告し、また電磁波による生体への影響に関し文献的考察を行ったものである。いわゆる電磁過敏症については、現段階では確立された疾病の概念になっていないものと認識しており、引き続き国内外の動向を見守ってまいりたいと考えている。

▼質問7:

前掲した「告発・電磁波公害」は「2000年7月26日、『東京新聞』に、『電磁波記事載せたらつぶすといわれた』『文部省圧力、抗議の廃刊』という見出しのトップ記事が掲載された。この雑誌は、文部省の文教施設部が監修する季刊誌『教育と施設』だ。電磁波の危険性を訴える記事が、文部省の圧力でいったん掲載を見送られたが、雑誌の編集長が『理不尽な検閲を認めるわけにはいかない』と、次号で記事を掲載し、17年間続いた雑誌を廃刊したというものだ。(略)1999年暮れに編集した第67冬号の『安全で健康的な学校』特集で、(略)文部省側が『社会を混乱させる』と問題視し、担当の中堅幹部が電話で数回にわたり、掲載を取りやめるように求めたという。上司の技術参事官と二人で編集部を訪れ、掲載中止を迫ったという。」と報告しているが、これは事実か。事実であれば掲載中止を迫った担当者と上司とはそれぞれ誰か。また、事実でなければ、どの部分が事実ではなく、実際はどうであったか具体的に示されたい。政府として承知していない場合は、調査を行うべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

△答弁:

「告発・電磁波公害」の御指摘の部分の内容に関し、現時点で文部科学省として把握している限りでは、文部省(当時)監修の季刊誌「教育と施設」への御指摘の記事(以下「本件記事」という。)の掲載を巡り、当時同誌の編集委員会の委員及び同委員会の下に置かれた編集幹事会の幹事であった文部省職員二名が、本件記事は掲載に当たり通常経るべき編集委員会の議を経ていないこと、及び本件記事で述べられている電磁波の人体への影響については未だ科学的知見が明らかでないことを理由として、同誌の編集及び監修に携わる立場から、本件記事を掲載しないよう編集長に要請したものと承知している。また、この二名は、当時の大臣官房文教施設部技術参事官及び同部指導課企画調整官である。

▼質問8:

厚生労働省では「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」を作成し、「公的研究である厚生労働科学研究の公正性、信頼性を確保するためには、利害関係が想定される企業等との関わり(利益相反)について適正に対応する必要がある。本指針は、利益相反について、透明性が確保され、適正に管理されることを目的とする。」としている。これは全省庁共通した認識であるべき事項だと考えるが、政府の見解を示されたい。

△答弁:

御指摘のとおりである。